インフルエンザの異常行動はタミフルのせい?子どもの脳への影響と、家庭で徹底すべき「転落事故防止」対策

インフルエンザシーズンになると、保護者の方からよくご相談いただくのが「タミフルなどの抗インフルエンザ薬を飲むと、異常行動が起きるのではないか?」という質問です。「急に走り出す」「窓から飛び降りようとする」といったニュースを見れば、心配になるのは当然です。 しかし、近年の研究では、認識が大きく変わってきています。

この記事では、医師の視点から「インフルエンザによる異常行動の真実」「家庭で最優先すべき事故防止対策」「ワクチンの本当の効果」について、最新の知見を交えて解説します。

「薬のせい」ではなく「インフルエンザによる脳への影響」

結論から申し上げますと、インフルエンザ罹患時の異常行動は、薬を飲んでいるかどうかにかかわらず起こることが分かっています。

厚生労働省・学会の見解

厚生労働省や日本小児科学会のガイドラインでは、以下の事実が明記されています。

  • 抗インフルエンザ薬(タミフル等)を服用していない場合でも、同様の異常行動が報告されている。
  • どの種類の薬を使っても、異常行動の報告がある。
  • したがって、異常行動は「薬の副作用」というよりも、「インフルエンザウイルス感染そのものが脳や中枢神経に与える影響(熱せん妄や脳症など)」である可能性が高い。

最新の研究データ

2018年の日本医療研究開発機構(AMED)の研究班の検討でも同様の結論が出ています。さらに、2025年の最新の研究(JAMA Neurology)では、むしろタミフル(オセルタミビル)の使用が異常行動のリスクを減らす可能性を示唆する報告も出てきています。

異常行動には、「熱せん妄・一過性の意識障害」といった比較的軽いものから、「インフルエンザ脳症」に伴う重篤なものまでグラデーションがありますが、いずれにせよ「お薬のせい」と決めつけず、インフルエンザにかかったら誰にでも起こりうると考えて対策することが重要です。

注意すべき「異常行動」と「救急要請」のサイン

特に発熱から2日間は、異常行動が起きやすい時期です。以下のような行動が見られないか注意深く観察してください。

代表的な異常行動

  • 急に立ち上がって走り出す、部屋から飛び出そうとする。
  • ベランダや窓から出ようとする、よじ登る。
  • 意味不明なことを言う、話が通じない、おびえるような様子。
  • ウロウロと歩き回る(徘徊)。

救急車(119番)または救急受診が必要なレッドフラッグ

単なる熱せん妄(うなされる等)であれば様子を見られることもありますが、以下の場合はインフルエンザ脳症などの重篤な状態の可能性があります。ためらわずに医療機関を受診してください。

  1. 異常な言動や行動が、概ね1時間以上続く(連続・断続問わず)。
  2. 意識状態が明らかに悪い、または悪化していく(呼びかけに反応が鈍いなど)。
  3. けいれん(ひきつけ)を起こしている。

「換気」と「転落防止」どちらが大事?

家庭内感染を防ぐために「隔離して換気をしたい」けれど、「目を離した隙の転落事故が怖い」というジレンマは、多くの保護者が抱える悩みです。

医師としての結論は、「転落等の事故防止(命を守ること)」を最優先してくださいとお伝えしています。

発熱から2日間は「目を離さない」が鉄則

厚生労働省も推奨している通り、以下の対策を徹底しましょう。

  • 子どもを一人にしない: 少なくとも発熱から2日間は、保護者がそばについて寝てください。
  • 物理的にロックする: ベランダや窓の鍵(補助錠含む)を確実にかけ、出られないようにします。
  • 1階で過ごす: 戸建ての場合は、転落リスクのない1階で療養するのが最も安全です。

現実的な「換気」のバランス

感染対策も大切ですが、転落事故は一度起きると取り返しがつきません。以下のような「折衷案」で対応しましょう。

  • 換気は「見守れる時」だけ: 子どもが起きている時や、大人が確実にそばにいる時だけ短時間の換気を行う。
  • 寝ている間は施錠優先: 就寝中や大人がトイレなどで席を外す際は、窓を閉めて施錠する。
  • 同室での工夫: 同じ部屋で寝る際は、大人がマスクを着用し、頭の向きを互い違いにするなどで飛沫感染リスクを下げる。

※インフルエンザに限らず、日頃からベランダに踏み台になるものを置かないなどの転落防止対策(消費者庁推奨)も重要です。

ワクチンを打ってもかかるのに、なぜ接種が必要?

「ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかった。意味がないのでは?」 診察室でよくいただく質問ですが、ワクチンの役割は「絶対にかからないバリア」ではありません。「重症化を防ぐ安全ベルト」のような役割です。

ワクチンの2つの効果

  1. 発症を一定程度減らす(発症予防効果 約60%)
    • ※有効率60%の意味: 「100人中60人が助かる」という意味ではなく、「ワクチンを打たなかった場合の発症率(例:30%)を、打つことでその4割(例:12%)まで減らせる」=リスクを6割減らせるという計算になります。
    • 例)ワクチンを接種しなかった方100人のうち30人がインフルエンザを発病(発病率30%)
      ワクチンを接種した方200人のうち24人がインフルエンザを発病(発病率12%)
      →ワクチン有効率={(30-12)/30}×100=(1-0.4)×100=60%
  2. 重症化を防ぐ
    • 「発病した場合の重症化を防ぐ効果(学校の欠席日数を減らす、入院を減らす)」がある

脳症予防の観点から

「インフルエンザ脳症を防ぐ」という効果は確立されていませんが、日本小児科学会は「インフルエンザにかかる可能性そのものを減らすことで、結果として脳症になるリスクも減らせる」として、接種を推奨しています。

ご自身の基礎疾患の有無や、ご家族(乳児や高齢者)を守るためにも、流行前のワクチン接種を強くおすすめします。

まとめ:保護者の方へ

インフルエンザ治療で最も大切なのは、薬の種類を選ぶことよりも、「自宅療養中の事故を防ぐこと」です。

  1. 異常行動は「ウイルスによる脳への影響」であり、誰にでも起こりうる。
  2. 発熱から2日間は、施錠を徹底し、子どもを一人にしない(転落防止最優先)。
  3. 1時間以上続く異常行動や意識障害は、すぐに救急へ。
  4. ワクチンは「完全にかからないようにする」のではなく、「かかる可能性を下げる」、「かかった時の重症化」を防ぐ安全ベルト。

お子様の様子で少しでも不安なことがあれば、いつでも当院にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q. タミフルを使わなければ、異常行動は起きませんか? 
A. いいえ、起きる可能性があります。異常行動は薬の副作用というより、インフルエンザそのものによる脳への影響と考えられています。薬の種類や使用の有無に関わらず、発熱から2日間は目を離さない対策が必要です。

Q. 家族への感染が心配です。別室で寝かせてもいいですか? 
A. 異常行動による転落事故のリスクがあるため、特にお子様が小さいうちや発熱直後は、目を離さず同じ部屋で過ごすことを推奨します。大人がマスクをする、換気は安全なタイミングで行うなどして対策しましょう。

Q. どんな症状なら救急車を呼ぶべきですか? 
A. 「意味不明な言動が1時間以上続く」「意識がぼんやりして反応が悪い」「けいれんしている」場合は速やかに医療機関を受診してください。

参考文献

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