
生後まもない赤ちゃんの頭の骨はとても柔らかく、長時間同じ向きで寝かせていると、頭の一部が平らになったりゆがんだりすることがあります。これを位置的頭蓋変形症(いわゆる「乳児期の頭の形のゆがみ」)といいます。実は、生後まもない赤ちゃんの約40~50%にこうした頭の形の偏りが見られるという報告もあります。多くの場合、頭の形のゆがみは見た目だけの問題で、赤ちゃんの脳の発育や知能には影響しません。まずはご家庭でできる対策を知り、安心してケアしていきましょう。
予防
頭の形のゆがみは、日常のちょっとした工夫でかなり防ぐことができます。以下のポイントを参考にしてみてください。
- 向きをこまめに変える: 赤ちゃんをベッドに寝かせるときは、毎回頭の向きを変えてみましょう。例えばベビーベッドに寝かせる向きを日替わりで反対にすると、赤ちゃんは部屋の見える方向に顔を向けるため、左右交互に頭を向ける習慣がつけられます。また授乳のたびに抱く腕を左右交代にすることで、首の向きの偏りを減らすこともできます。
- 興味を利用する: 赤ちゃんにむきぐせ(好んで向く方向)がある場合は、反対側から声をかけたりおもちゃを見せたりして、できるだけ両側に首を向ける機会を作りましょう。ベビーベッドでも、壁側ではなく部屋の中央側に人のいる方向を配置すると、赤ちゃんがそちらを向くよう促せます。
- 抱っこや姿勢替え: 起きている間は、できるだけ長時間同じ姿勢で寝かせっぱなしにせず、抱っこをしたり、抱っこひもで縦抱きにしたりして過ごす時間を増やしましょう。こうすることで後頭部への持続的な圧迫を減らせます。また、長時間にわたってベビー用の揺りかごやバウンサー、チャイルドシートなどに寝かせたままにしないように心がけましょう。
- タミータイム(うつぶせ遊び): 赤ちゃんが起きているときに、大人が見守りながらお腹を下にして遊ぶ時間を取り入れましょう。タミータイムは頭の同じ箇所への圧力を減らすだけでなく、首や背中の筋肉を鍛え、運動発達を促す効果があります。詳しいやり方は次の項目で説明します。
安全な寝かせ方
赤ちゃんの睡眠中の安全を守るため、基本は「仰向け」で寝かせることが大前提です。うつぶせに寝かせるとSIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクが高まるため、うつぶせ寝は避けましょう。
- 側臥位はやめましょう: 赤ちゃんを横向き(側臥位)に寝かせる方法は、一見頭の片寄りを防げそうですが、睡眠中にうつ伏せに転がってしまう危険があるため推奨されません。必ず仰向け寝から始め、どうしても必要な場合でも大人が見ているとき以外は横向きで寝かせっぱなしにしないでください。
- 枕・ポジショナーの使用は避ける: 「絶壁頭防止クッション」など市販の頭の形矯正用枕がありますが、これらを寝るときに使用するのは安全ではありません。赤ちゃんの顔が沈み込んで窒息する事故につながるおそれがあり、効果も医学的に証明されていないためです
ポイント: 仰向けで寝かせることと、起きているときにうつぶせにすること(タミータイム)は目的も安全性のポイントも異なります。うつぶせ寝(寝かせるときにうつぶせにすること)は推奨されませんが、起きて遊んでいる時間のうつぶせ姿勢(タミータイム)は発達に良い刺激となります。
タミータイム(うつぶせ遊び)の意義と安全なやり方
タミータイムとは、赤ちゃんが起きている時間帯に、保護者が見守っている中で赤ちゃんをうつぶせの姿勢で遊ばせることです 。英語で「Tummy (お腹) Time (時間)」と呼ばれ、近年は日本でも「うつぶせ遊び」や「腹ばい遊び」として推奨されています。タミータイムには次のようなメリットがあります。
- 頭の形のゆがみ予防: 仰向けでばかり過ごす時間を減らし、頭の同じ部分への圧力を軽減できます 。その結果、後頭部の扁平化(絶壁)や片側へのゆがみ(斜頭症)の予防・改善につながります。
- 運動発達を促す: うつぶせの姿勢は、赤ちゃんにとって頭を持ち上げたり左右に向けたりする練習の場になります。タミータイム中に赤ちゃんは首や肩、背中、腰の筋肉を使うため、首すわりや寝返り、お座り、ハイハイなどの発達を助ける効果があります
- タミータイムの安全な取り入れ方: 生後すぐ(退院直後)からでも、赤ちゃんの機嫌の良いときに少しずつ始めてみましょう。以下に安全に楽しく行うコツをまとめます。
具体的なタミータイムの手順
- 時間と頻度: 最初は1回わずか3~5分程度で構いません。それを1日2~3回、授乳後やおむつ替え後の機嫌の良いタイミングで行ってみましょう。首がすわってくる生後3~4か月頃に向けて、徐々にうつぶせで遊ぶ時間を延ばしていき、1日合計30~60分程度を目標にします。もちろん赤ちゃんの様子に合わせて無理のない範囲で増やしてください。
- 姿勢の工夫: 赤ちゃんを床に直接うつぶせにすると嫌がる場合は、ママ・パパの胸の上にうつぶせに寝かせてみる方法があります。リクライニングしたお母さんやお父さんの胸の上でうつぶせになると、赤ちゃんも安心しやすいです。または、床にブランケットなどを敷いて赤ちゃんをうつぶせにし、大人が横に寝転んで顔を合わせるのも良い方法です。声をかけたりおもちゃを見せたりして、楽しく遊べるようにしましょう。
- 安全確認: タミータイム中は絶対に赤ちゃんから目を離さないようにします。顔がマットや布団に沈み込んで鼻や口がふさがれていないか常に確認しましょう。特に首が据わらない時期は、自分で顔を横に向けられずに苦しくなる危険があります。硬めの安全な床材の上で行い、柔らかすぎる布団やクッションの上ではうつ伏せにしないでください。吐き戻し防止のため、授乳直後は避け、少し時間をおいてから行うと安心です。
- 機嫌を尊重: 赤ちゃんが泣いて嫌がるときは無理に続けず、一度姿勢を変えて落ち着かせてあげましょう。少し時間をおいてから再度チャレンジします。毎日続けることで徐々に慣れてきますが、機嫌の良いときに短時間から始めるのがコツです。
- 寝ないように注意: タミータイムはあくまで「遊びの時間」であり、赤ちゃんが眠ってしまった場合はただちに仰向けに戻して寝かせるようにします。決してうつぶせの姿勢のまま眠らせないでください(うつぶせ寝はSIDSのリスクがあります)。タミータイム中も常に様子を見て、眠そうなときは切り上げて休ませてあげましょう。
経過と受診の目安
自然経過: 位置的頭蓋変形症による頭のゆがみは、成長とともに改善していくことが多いです。歪みが最も目立ちやすいのは首のすわり前後の生後4か月頃ですが、その後赤ちゃんが自分で寝返りをうったり、お座りやハイハイで長時間寝転がらなくなってくると、頭への圧力も分散し徐々に形が整ってきます。軽度のゆがみであれば、上記のような体位調整やタミータイムを続けることで、特別な治療をしなくても徐々に改善していくことが期待できます。
受診や治療が必要な場合: 次のような場合には、小児科医や専門外来に相談してみましょう。
- 頭のゆがみが強い、あるいは左右差が拡がっているように感じるとき(例:耳の位置が左右でずれて見える、おでこの出っ張りに左右差がある等)。
- 赤ちゃんに強いむきぐせがあり、常に同じ方向にしか頭を向けられない様子があるとき。首の筋肉のかたさ(いわゆる斜頸〈しゃけい〉)がある可能性があります。
- 生後3~4か月の時点で、明らかなゆがみが残っているか悪化しているとき。
その他の医療介入: 極めて稀なケースですが、頭の骨の縫合線が生まれつき早く閉じてしまう「頭蓋骨縫合早期癒合症」など別の原因が疑われる場合は、専門的な検査や外科的治療が検討されます。このような病的要因による頭のゆがみは位置的頭蓋変形症とは異なるため、まずは小児科で適切な診断を受けることが大切です。
ヘルメット治療も選択肢のひとつ
理学療法を自宅で実施することで頭のかたちが改善すればそれがベストです。しかし、実際には理学療法のみでは限界があることも事実です。
ヘルメット治療も選択肢のひとつです。ぜひ一度「頭のかたち外来」をご予約ください。
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