
日本では、定期予防接種の多くが自治体の公費で無料接種できる仕組みになっています。しかし、もしこれらがすべて自己負担になった場合、どのくらいの費用がかかるかご存じでしょうか?
この記事では、2025年10月現在の当院の自費接種価格をもとに総額を試算し、各ワクチンの内訳をわかりやすくまとめます。
定期予防接種とは?対象となるワクチン一覧
定期接種の定義
・予防接種法に基づき、国が接種を推奨・助成しているワクチン。
・主に乳幼児期に複数回接種が必要なものが多い。
・今回の試算では地方自治体による助成がある任意接種のワクチンについては除外。
対象となる主な定期接種一覧(2025年時点)
- B型肝炎(3回)
- ロタウイルス(2~3回)
- 五種混合(DPT-IPV,Hib)
- 小児用肺炎球菌
- BCG
- MR(麻しん・風しん)
- 水痘
- 日本脳炎
- 二種混合(DT)
- HPVワクチン(定期接種は女児のみ)
もしすべて自費だったら?ワクチン別の費用一覧(2025年版)
予防接種の料金を予防接種スケジュールの順にご紹介します。予防接種のスケジュールは一例なので実際に接種される場合はきっちりこの通りでなくても大丈夫です。
<生後2ヶ月>
肺炎球菌 12000円
五種混合 20000円
B型肝炎 5000円
ロタウイルス(ロタテック) 9100円
<生後3ヶ月>
肺炎球菌 12000円
五種混合 20000円
B型肝炎 5000円
ロタウイルス(ロタテック) 9100円
<生後4ヶ月>
肺炎球菌 12000円
五種混合 20000円
ロタウイルス(ロタテック) 9100円
<生後5ヶ月>
BCG 9000円
<生後6ヶ月>
B型肝炎 5000円
<1歳>
肺炎球菌 12000円
五種混合 20000円
麻疹風疹 12200円
水痘 6100円
<1歳6ヶ月>
水痘 6100円
<3歳>
日本脳炎 8100円
<3歳1ヶ月>
日本脳炎 8100円
<4歳1ヶ月>
日本脳炎 8100円
<6歳>
麻疹風疹 12200円
<9歳>
日本脳炎 8100円
<11歳>
二種混合 4000円
<12歳>
子宮頸がん(定期は女児のみ) 27500円 (2回接種として計算)
合計
日本で生まれた子どもが定期接種で受けることができるワクチンの総額(おぎくぼ小児科の場合)は以下の通りです。
男児・・・25万2300円
女児・・・33万4800円
非常に高額ですよね。
なぜこれほど高額になるのか?
多くのワクチンは、1回の接種だけでは十分な免疫を得られません。体がしっかりと抗体を作り、長期間その免疫を維持するためには、複数回に分けて接種する「ブースター」が必要になります。
たとえばB型肝炎ワクチンは3回、肺炎球菌、五種混合ワクチンなどは4回の接種が推奨されています。これらをすべて自費で受ける場合、1回あたりの費用が5,000〜10,000円でも、最終的には数万円単位の出費となります。
つまり、ワクチン1種類ごとの単価だけを見ると高額に感じにくいものの、実際には「複数回接種を前提としたスケジュール」が総費用を大きく押し上げる要因となっているのです。
公費制度により「無料」で受けられる理由
感染症対策としての社会的意義
定期予防接種が公費で実施されている理由の1つは、社会全体で感染症を抑え込むためです。
個人がワクチンを接種することで自分自身が感染症にかかりにくくなるだけでなく、周囲の人への感染拡大も防ぐことができます。これを「集団免疫」と呼びます。
一定以上の接種率を保つことで、ワクチンを受けられない乳児や免疫が弱い人をも守ることができ、結果的に社会全体の医療費や重症化リスクを減らすことにつながります。
つまり、定期接種の公費化は個人の健康を守るためだけでなく、社会全体の安全を維持するための重要な公衆衛生政策なのです。
公費の仕組み
定期予防接種は、予防接種法に基づいて国が基本方針を定め、費用負担を各自治体が行っています。
対象となる年齢や接種間隔は全国で統一されており、対象期間内であれば保護者の自己負担は原則0円です。
国が財政的に支援する形で制度が成り立っています。
この仕組みにより、すべての子どもが家庭の経済状況に関係なく必要なワクチンを受けられるようになっており、公平な医療アクセスを保障する公的制度として非常に重要な役割を担っています。
自費で接種するケースもある
任意接種(インフルエンザ・おたふくかぜなど)
すべてのワクチンが公費で受けられるわけではありません。国が定める「定期接種」以外にも、感染予防の観点から医師が推奨する任意接種があります。
代表的なものが、インフルエンザワクチン、おたふくかぜ(ムンプス)ワクチンなどです。これらは重症化を防ぐうえで重要ですが、公費の対象外となるため1回あたり3,000〜6,000円程度の自己負担が必要になります。
また、園や学校での集団感染を防ぐ目的で接種が推奨されることもあり、「任意」とはいえ実質的には多くの家庭が受けているワクチンといえます。
自治体によっては助成があることもあります。
海外渡航・接種間隔の関係で自費となる場合
もうひとつの自費となるケースは、接種スケジュールのずれや海外渡航前の追加接種などです。
たとえば接種スケジュールがずれてしまい、国が定めた期間内に接種できないと定期接種であっても自費で接種することとなります。
また、海外留学や駐在を予定している場合、渡航先で必要とされるA型肝炎、狂犬病、黄熱などのワクチンを国内で事前に接種するケースも多く、その際は全額自己負担です。
つまり、接種のタイミングやワクチンの種類によって公費か自費かが変わることがあり、計画的なワクチンの接種が大切です。
まとめ:定期予防接種は「無料」ではなく「公費が負担してくれている」
定期予防接種は「無料」と表現されることが多いですが、実際には国や自治体がその費用を全額負担してくれているおかげで成り立っています。
もしこれらをすべて自費で接種した場合、30万円を超える高額な費用がかかる計算になります。
この公費制度によって、家庭の経済状況にかかわらず、すべての子どもが必要なワクチンを受けられるようになり、社会全体の感染症予防にもつながっています。
「無料だから後回しでいい」と考えるのではなく、接種時期を逃さず計画的に受けることが、子どもの健康を守るうえで最も大切です。
ワクチンは“特別なもの”ではなく、社会全体で守り支えている「未来への投資」とも言えるでしょう。

