【医師が解説】痛くないインフルエンザワクチン「フルミスト」

インフルエンザワクチンといえば注射を思い浮かべる方が多いかと思いますが、実は「フルミスト」という注射を使わないタイプのワクチンがあります。フルミストは鼻にスプレーすることで接種できる経鼻インフルエンザワクチンです。痛みが少なく、特に注射を嫌がるお子さまにとっては負担の少ない方法として注目されています。ここでは、フルミストの特徴や接種できる方・できない方、注意点などを詳しくご紹介します。

フルミストについて

ワクチンの種類:弱毒生インフルエンザワクチン
投与方法:鼻の中に0.1mLずつ(計0.2mL)噴霧する
投与回数:1シーズンに1回
対応株:A型2種類(H1N1、H3N2)、B型1種類(ビクトリア系統)

フルミストは「生ワクチン」に分類され、弱毒化されたインフルエンザウイルスを鼻腔内に噴霧することで免疫をつけます。鼻やのどの粘膜に直接作用するため、自然な感染に近い形で免疫が獲得できるのが大きな特徴です。
接種方法は注射とは異なり、両側の鼻にスプレーするだけなので、針を使うことがありません。これにより、注射を怖がる小児や、注射への恐怖心が強い方にとって心理的な負担を軽減できる点がメリットです。

注射のインフルエンザワクチンでは13歳未満(12歳11ヶ月まで)の場合は2回接種です。そのため、13歳未満の患者さんの場合は1回の接種(受診回数も1回)で済むという点が大きなメリットとなります。

対応株は2025年から不活化インフルエンザワクチン(注射)、弱毒生インフルエンザワクチン(経鼻:フルミスト)も3種類になっています。インフルエンザワクチンが複数の種類に対応していることに関しては以下の記事も併せてご覧ください。

接種対象となる方

フルミストは、2歳以上から19歳未満(18歳11ヶ月まで)の方が対象です。2歳未満、19歳以上は接種することができません。ご注意ください。

接種できない方

一方で、フルミストはすべての方に適しているわけではありません。以下の方は接種できません。

  • 2歳未満、19歳以上の方
  • フルミストの成分によってアナフィラキシーを発症したことがある方
  • 妊娠中の方
  • 過去にインフルエンザワクチンやフルミスト成分で重いアレルギー反応を起こしたことがある方
  • 現在発熱している方や体調がすぐれない方
  • 副腎皮質ホルモン剤(経口、注射)、免疫抑制剤(経口、注射)を使用中の方
  • 副腎皮質ホルモン剤(経口、注射)、免疫抑制剤(経口、注射)を中止してから6ヶ月以内の方
  • 上記の他、予防接種を行うことが不適当な状態の方

注意が必要な方

以下の方はフルミストの必要性、副反応、有用性について十分に検討をする必要があります。

ゼラチン含有製剤、またはゼラチン含有の食品に対してショック、アナフィラキシー等の過敏症の既往がある方

フルミストの安定剤に精製ゼラチンを含むため、接種に注意が必要です。注射による不活化ワクチンをおすすめいたします。

重度の喘息を有する、または喘鳴の症状を呈する方

フルミストは経鼻接種ワクチンです。重度の喘息を有する方や喘鳴の症状を呈する方における接種には注意が必要です。

接種希望者が妊娠可能な場合

あらかじめ約1ヶ月間避妊したあとに接種を行います。また、ワクチン接種後、約2ヶ月間は妊娠しないように注意してください。

授乳中の方

授乳の中止を検討する必要があります。

卵アレルギーの方

国内の添付文書は、「鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈するおそれのある者」を接種要注意者に分類しています。しかし、米国においては、「卵アレルギーのみの場合は、重症度に関係なく、あらゆるワクチン被接種者に推奨される以上の特別な安全対策は必要ない。」としています。軽度の卵アレルギーだけであれば接種は可能と判断して良いでしょう。

フルミストの注意点

水平伝播

フルミストを接種した小児は鼻咽頭分泌物中にワクチンウイルスを最長3~4週間排出する可能性があります。そのため、飛まつ、または接触によってワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるためワクチン接種後1~2週間は重度の免疫不全者との密接な関係を可能な限り避けることが必要となります。

免疫抑制薬を使用していたり、生まれつき免疫が弱い方と接する機会の多い方は注射の不活化ワクチンの方が良いでしょう。

抗インフルエンザウイルス薬を最近使った方

抗インフルエンザウイルス薬を使用した後にフルミストを接種した場合は効果が落ちる可能性があります。臨床試験ではフルミスト接種前4週間以内に抗インフルエンザ薬を使用した方は除外されています。過去28以内に抗インフルエンザ薬を使用された方は不活化インフルエンザワクチンを接種した方が良いでしょう。

※米国では48時間以内にオセルタミビル(タミフル)またはザナミビル(リレンザ)を投与された方と過去5日以内にペラミビル(ラピアクタ)を投与された方と過去17日以内にバロキサビル(ゾフルーザ)を投与された方はフルミストの接種を推奨していません。

フルミストを接種後の抗インフルエンザ薬の使用

フルミスト接種後2週間は抗インフルエンザ薬を投与されるとフルミストの効果が落ちる可能性があります。

フルミスト接種後のインフルエンザ検査

フルミスト接種後4週間はインフルエンザでなくてもインフルエンザの検査を実施すると陽性になる可能性があります。

サリチル酸系医薬品(アスピリン等)

ライ症候群という病気を発症する可能性があります。小児では川崎病罹患後に内服していることが多い薬です。ご注意ください。

日本小児科学会の見解

不活化インフルエンザワクチン(注射)と弱毒生インフルエンザワクチン(経鼻ワクチン:フルミスト)どちらの方が優れている?

インフルエンザワクチンには、大きく分けて注射で接種する「不活化インフルエンザワクチン」と、鼻からスプレーする「生インフルエンザワクチン(経鼻ワクチン:フルミスト)」の2種類があります。現時点では、どちらか一方がインフルエンザ予防に明確に優れているという科学的な証拠はありません。

2歳以上、19歳未満の方

2歳以上19歳未満のお子さまや若い方については、不活化インフルエンザワクチンと経鼻ワクチンのいずれを選んでも同等に推奨されています。そのため、注射を怖がるお子さまにはフルミストを、従来通り注射での接種を希望する方には不活化ワクチンを選ぶことができます。

喘息をお持ちの方

一方で、喘息をお持ちの方は経鼻の生ワクチンではなく、不活化インフルエンザワクチン(注射)の使用が推奨されます。

授乳中、免疫力が低下しているご家族がいる場合

授乳中の方や、周囲に免疫力が低下しているご家族がいる場合も、不活化ワクチンの方が望ましいとされています。

不活化インフルエンザワクチン(注射)を選ぶべき方

さらに、生後6か月〜2歳未満のお子さま、19歳以上の方、免疫不全のある方、無脾症の方、妊婦の方、ミトコンドリア脳筋症の患者さん、ゼラチンアレルギーのある方、脳や脊髄を守るバリア(中枢神経系の解剖学的バリア)が破綻している方については、経鼻ワクチンは使用できず、注射の不活化インフルエンザワクチンを選んでいただく必要があります。

このように、インフルエンザワクチンの種類にはそれぞれの特徴と注意点があり、年齢や体質、持病の有無によって適切なワクチンが異なります。接種を希望される際には、ご自身やご家族の健康状態に合わせて、医師とよく相談しながら最適な方法を選びましょう。

まとめ

フルミストは、注射を使わず鼻にスプレーするだけで接種できる「経鼻インフルエンザワクチン」です。弱毒化された生ウイルスを用いることで、自然感染に近い形で免疫をつけられるのが特徴で、注射を嫌がるお子さまにとって大きなメリットがあります。

対象は 2歳以上19歳未満 に限られますが、喘息や免疫抑制状態、妊娠中、授乳中、ゼラチンや卵アレルギーをお持ちの方などには注意が必要です。また、抗インフルエンザ薬の使用状況や接種後の生活環境(免疫不全の方との接触など)によっては、注射による不活化ワクチンの方が適している場合もあります。

フルミストを接種できない人、推奨しない人
  • 2歳未満、19歳以上 の方
  • フルミスト成分でアナフィラキシーを起こしたことがある方
  • 妊娠中の方
  • 過去にフルミストの成分で重いアレルギー反応を起こした方
  • 発熱中・体調不良の方
  • 副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤を使用中または中止してから6か月以内の方
  • 無脾症、免疫不全、ミトコンドリア脳筋症の方
  • 脳や脊髄を守るバリア(中枢神経系の解剖学的バリア)が破綻している方
  • ゼラチンアレルギーのある方(フルミストにはゼラチンが含まれるため)
  • 重度の喘息を持つ方、喘鳴のある方
  • 妊娠を希望している方(接種前1か月、接種後2か月は避妊が必要)
  • 授乳中の方(授乳中止を検討する必要あり)
  • 卵アレルギーのある方(軽度なら可だが、医師と要相談)
  • 免疫力が低下している家族と同居している方(水平伝播のリスクがあるため不活化ワクチン推奨)
  • 直近で抗インフルエンザ薬を使用した方(効果が落ちる可能性あり)
  • フルミスト接種後に抗インフルエンザ薬が必要になる可能性が高い方(効果減弱の懸念)
  • 川崎病などでサリチル酸系薬(アスピリン等)を内服中の方(ライ症候群のリスク)
  • その他、医師が予防接種を不適当と判断した方

現時点では、注射型の不活化ワクチンとフルミストのどちらが優れているかを示す明確な証拠はなく、対象年齢であればどちらも同等に推奨されています。したがって、ご自身やお子さまの健康状態やライフスタイルに合わせて最適な方法を選択することが大切です。

インフルエンザ予防にはワクチン接種に加え、日常の手洗い・マスク・十分な休養や栄養も重要です。複数の予防手段を組み合わせて、安心して冬を過ごしましょう。

参考文献

・”経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方~医療機関の皆様へ~”. 公益社団法人日本小児科学会. https://www.jpeds.or.jp, (参照日付2025年9月2日)

Q & A

他のワクチンと接種間隔の制限はありますか?

経口生ワクチン(注射生ワクチンではない)ので、他のワクチンとの接種間隔の制限はありません。

1シーズン中に2回以上接種できますか?

日本国内において、フルミストは1シーズンは1回までです。1シーズンに複数回接種した場合の安全性については評価されていません。

予防接種と診察を一緒に受けたい方はこちら

所在地

〒167-0043

東京都杉並区上荻1-21-21

SYMPHONY MARE 1階

・荻窪駅西口から徒歩4分
・駐輪場完備
・当院への詳しいアクセスについてはこちら
・駐車場はありません。
 近隣のコインパーキングについてはこちら

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!